魅惑の航空王は最愛の元妻を取り戻したい
 いや、絶対にその未来を作ってみせる。離れる時間が、彼女が安心して生きていける居場所を作るために必要だとすれば、きっと無駄ではない。

 朝日が昇ってきた頃、ようやく自分でも納得できた俺は印鑑を手にした。

 判を押してソファに背中を預けた途端、気が抜けたのか一気に睡魔に襲われる。もうすぐ芽衣子は俺の元を去ってしまう。その前に俺の気持ちをきちんと告げようと決めた直後、あっさりと眠りに落ちていた。


 ──気がつくと、靴を落とした時と同じパーティードレス姿の、シンデレラのような彼女が俺の前にいた。

『誠一さん、私を愛してくれて本当にありがとうございました。……人生で一番幸せな一年間でした』

 心からの言葉だとわかる、切なさの混じった穏やかな声を紡いだ彼女は、軽い口づけをして綺麗に微笑んだ。俺は背を向けて去っていく彼女に手を伸ばす。

 待ってくれ、まだ大事なことを伝えていない。いつか迎えに行くと、願いを実現させるために口にしておきたいんだ。バンクーバーでそうしたように。

「……待て、芽衣子……」

 名前を呼んでゆっくり瞼を押し上げた。窓から朝日が差し込み、物寂しいテーブルの上を照らしている。

< 154 / 212 >

この作品をシェア

pagetop