魅惑の航空王は最愛の元妻を取り戻したい
 夢、か……。彼女が纏っていた花のような香りまでした気がするし、やけにリアルだったな。

 ぼんやりしながら座り直すと、肩からかけた覚えのないブランケットが落ちた。違和感を覚えた時、テーブルに離婚届がないことに気づく。

 代わりに置かれていたのは、この部屋の合鍵と結婚指輪。その瞬間、状況を察して一気に脳が覚醒した。

 一目散に寝室へ向かいドアを開けると、すでにベッドには芽衣子の姿がなかった。やはり、俺が眠っている間に出ていってしまったらしい。

 まさかこんなに朝早くに出ていかれるとは。バス停まで送ると言ったのに。

「くそっ……また逃げられた」

 初対面のワンシーンを脳裏によぎらせつつ時計を見やると、針は午前六時半を指している。最寄りのバス停の始発は、確か七時より少し前だったはず。まだ間に合うかもしれない。

 急いで適当な服に着替え、家を飛び出る。さっき芽衣子がくれた言葉とキスは、おそらく夢じゃなくて現実だったんだなと、もどかしい想いでいっぱいになりながら。

 人通りもまばらな土曜日の早朝の街を、乱れた髪も気にせず走る。バス停が見えてくると、大きめのバッグを持つ芽衣子だけがそこにいた。

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