魅惑の航空王は最愛の元妻を取り戻したい
 間に合ったと安堵したのもつかの間、俺の横を速度を下げたバスが通り過ぎていく。芽衣子が乗るバスだとわかり、さらに急ぐ。停止したそれのドアが開き、ステップを上る彼女を呼び止める。

「芽衣子!」

 一段上ったところで足を止めた彼女は、心底驚いた様子で振り返った。

「せっ、誠一さん……!?」

 俺はバスの戸口に手をかけ、乱れた息をできるだけ整える。目を白黒させている彼女を、まっすぐ見つめて口を開く。

「俺は、このまま終わりにするつもりはない」
「え……?」

 わけがわからないといった様子の彼女に、なるべく端的に言葉を投げかける。

「経営を回復させて、芽衣子が心から安心できる環境を整えたら、もう俺を拒む理由はないだろう?」
「そ、それは……」

 こう来るとは予想していなかっただろう。どう答えたらいいのか悩むように言葉を詰まらせ、動揺を露わにしている。

 俺は手を伸ばし、エスコートするかのごとく彼女の細い手を取る。先ほどと同じ香りがふわりと舞った。

< 156 / 212 >

この作品をシェア

pagetop