魅惑の航空王は最愛の元妻を取り戻したい
 透明な氷山のような氷が浮くグラスを口につけた天澤は、納得したらしく軽く頷いた。

「よかったです。調べるためにやばい手を使ってなくて」
「やばい手ってなんだ」
「いや、芽衣子さんがいなくなってからの羽澄さんは、どこか影があるというか、冷徹になった感じがしたんで。彼女を取り戻すためなら手段を選ばないかもと」

 あまり自覚していなかったが、確かに彼女がいる時はかなり丸くなっていたとは思う。手段を選ばないというのも間違ってはいないので、「妹夫妻がいなかったら探偵でも雇ってたかもな」と言うと、天澤は口の端を引きつらせていた。

 ここまで誰かを求める気持ちが理解できないのか、彼は神妙な顔でナッツを摘まみながら問いかけてくる。

「ずっと連絡も取り合ってない状態で急に現れたら、どんな反応をされるんだろうって不安はないんですか? 他に好きな人ができてるかも、って考えたりとか」
「もちろん不安はあるよ。緊張してるのはそれが大きいかもしれない」

 俺の想いは別れ際にバス停で伝えたきりだし、今も彼女がそれを覚えていて、信じてくれているかもわからない。余裕があるわけではないのだ。

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