魅惑の航空王は最愛の元妻を取り戻したい
 さらっと〝脅し〟とか言うなと天澤にツッコみたいが、あながち間違いではないので苦笑を漏らす。

 益子と芽衣子の関係が知られた当時、オフィスを歩けばひそひそ話が聞こえてきたり、あえて会議で話題に出すような低レベルな役職者がいたりもした。そのたび、俺は静かな怒りを滲ませて彼らに言った。

『妻への冒涜は、私に対するものと同じです。私はなにもせず許せるような聖人君子ではないので、罰を受ける覚悟がないなら口にしないでいただきたい』と。

 芽衣子は、そうやって対処するのも俺の負担になると思っていたようだが、決してそんなことはない。大事な人を傷つけるやつらを許さず、黙らせるのは造作もないことだ。

 俺のために離婚したのに、今も結婚しているふうに見せかけていると知ったら、彼女はがっかりするかもしれないな。それが俺の、ささやかな仕返しということにしておこう。

 天澤の言う通り、俺には腹黒さと執着する部分があったんだなと自己分析していると、彼はグラスの氷を揺らして口角を上げる。

「なんにせよ、そこまで愛せる人がいるってのは幸せですね。俺には考えられない」

 女性社員が放っておくはずがないモテ男なのに浮いた話を聞かない天澤は、三十歳になる今も恋愛する気がまったくないらしい。機長を目指して頑張っている時は、俺も脇目を振る余裕はなかったので共感できる。

< 167 / 212 >

この作品をシェア

pagetop