魅惑の航空王は最愛の元妻を取り戻したい
「……私たち、生まれた時から父親がいなくて。母も数年前に亡くなって、ずっとふたりで生きてきたんです。だから、人一倍あの子が大切で……って、すみません。重いですね」
「いや、なにか心に溜まってるならどうぞ話して。写真を撮るあたりからあまり表情が浮かないから、少し気になってた」

 思わぬ言葉に、私は少々ドキリとした。密かに抱いていた暗い気持ちが、見てわかるほど顔に出ていたのだろうか。

 そしてそれを吐き出させようとしてくれる羽澄さんは、包容力のある人だと感じる。出会ったばかりなのに、甘えていいものか。いやむしろ、あまり関係のない人だからこそ話せる気もするな。

 緑のガーデンによく馴染む、レトロで重厚感ある板張りのレストランを見やる。そこへ向かっていく梨衣子を目に映しながら、私はゆっくり口を開いた。

「私は、あの子に依存しすぎなのかもしれません。幸せになってほしいって心から願ってるのに、私のそばから離れないでほしい気持ちもすごく強くて。ディランさんにも感謝してるのに、心のどこかで〝奪わないで〟って思ってる。幸せそうなふたりを見ると、嬉しい反面苦しくなるんです」

 ふたりを祝福する気持ちに嘘はない。けれど、矛盾した感情を抱いているのも事実。いくら大事な妹でも、こんなに依存するのはおかしいんじゃないだろうか。

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