魅惑の航空王は最愛の元妻を取り戻したい
純情ママは執愛に陥落する

 ──今から二十年ほど前、しし座流星群が大量に見られると話題になった年、母と梨衣子の三人で天体観測をしたことがある。

 実際にたくさんの星を見たのも初めてだったので、流れ星は衝撃的だった。

 本当に何十個も星が降ってきて、幼いながらにものすごくロマンチックだと思った。その時に教えてもらった、『流れ星は天国の光のかけら』だという言葉も。

 自分がなにを願ったかも忘れてしまったのに、その言葉は鮮明に覚えている。まるで宝石を散りばめたような星空も、母の笑顔も、私にとってすごく印象的だったのだろう。

 だから娘の名前を考えている時、梨衣子が『カナダではエマって名前が人気だよ。意味のひとつは〝宇宙〟なんだけど』と教えてくれて即決したのだ。

 あの流れ星のように綺麗で神秘的な景色を意味する言葉なら、この子の人生も光り輝くものになるかもしれない。

 ささやかな願いを込めて名づけた恵茉は、ふたりだけの生活でも元気にすくすく育っている。

 そんな彼女の様子を見ながら、私は今日もソースの香り漂う店内を掃除したり、事務仕事をしたりしている。清掃員の頃のスキルはここでも活かせるので嬉しい。

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