魅惑の航空王は最愛の元妻を取り戻したい
 おかげで警戒心が薄れ、郁代さんと一緒に輝さんの話を聞いた。彼女は『ずっと輝って呼んでたから、苗字忘れてたわ』と笑っていて、益子の実の息子とは思わなかったらしい。

 私も半信半疑だったが、その後いつかの私と同じように戸籍謄本まで用意してきたものだから、本当に異母兄なんだと信じさせられたのだ。私を心配してわざわざ帰国してくれた梨衣子と三人で会って話し、彼の人のよさを実感して信頼するようになった。

 輝さんは『ずっと一緒に暮らしてきた息子の俺より 、芽衣子が人目にさらされるなんて皮肉なもんだよな』と苦々しく言っていた。日本アビエーション社長の妻という立場だったせいだが、それでも誠一さんと一時でも夫婦になれたことは心から幸せに思う。

 波乱万丈な人生だけれど、今も昔もそれなりに幸せだ。なにがあっても笑顔で、前を向いて歩いていかなくちゃ。

 短時間のパート勤務を終えると、ずっと休憩室で遊んだりお昼寝したりしていた恵茉を連れて帰宅する。彼女が大事にしている白いうさぎのぬいぐるみを忘れそうになったものの、輝さんが渡してくれてよかった。

 お店を出て、ぬいぐるみを抱いた恵茉と手を繋いで歩き出す。数秒後、後方から「羽澄さん!?」という声が聞こえた気がして、私は反射的に振り返った。

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