魅惑の航空王は最愛の元妻を取り戻したい
 いや、私はもう〝羽澄さん〟ではないし、こんなところに彼がいるはずもない。つい反応してしまう癖はいまだに直らないな、と苦笑を漏らしてすぐに前を向こうとした瞬間、人混みの中にひと際目立つ長身の男性を捉え、思わず二度見した。

 あれは……誠一さん? 他人の空似じゃない、よね?

 端正な顔に高貴な雰囲気を纏い、ただそこにいるだけで目を惹く彼。たったの一年間だけれど、誰よりも近くで見てきた愛しい人の姿を、見間違うはずがない。

 まさか、本当に会いに来てくれた……? 約二年前の情熱が再燃するように、ドクンドクンと鼓動が大きくなる。

 ところが、彼の隣に誰かいるのに気づく。それが妃さんだとわかり、私は咄嗟にわが子を抱き上げて電柱の陰に身を隠した。

 挙動不審な私を、娘がつぶらな瞳で不思議そうに見上げる。

「ママぁ?」
「ごめん、恵茉! ちょっと待ってて」

 どうして隠れたのか自分でもよくわからないが、ずっと連絡も無視していた元旦那様に、なんの心の準備もなく会うのは気まずすぎる。しかも、ひとりではないようだし。

 妃さんはここが地元らしいけれど、一緒に来たのだろうか。なにをしに? もしや、ふたりはそういう仲……?

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