魅惑の航空王は最愛の元妻を取り戻したい
 恐る恐る電柱の陰から顔を覗かせて確認してみたその時、ふたりが密着する瞬間が見えて瞠目した。胸に大きな痛みが走り、ぱっと顔を背けた私は、逃げ出すように早足でその場から去る。

 今……抱き合ってなかった? 妃さんがしっかり腕を掴んでいるのははっきり見えた。やっぱり、彼女は好意を持っているんじゃないかな。

 妃さんと再会した半年ほど前、誠一さんはどうしているか聞くと、『彼は新しい道に進んでいます。公私共に順調そうですから心配しないでください』と言っていた。それはつまり、彼の中で私とのことはしっかり過去になっているという意味だろうと受け取った。

 その時は、寂しくはあったけれど納得していたし、安堵もしていたのだ。誠一さんが仕事もプライベートもうまくいっているなら、私が別れを選んだのは間違いではなかったと思うから。

 彼が幸せならそれでいい。確かにそれが私の願いだったはずだ。それなのに──いざ女性とふたりでいる場面を見たら、拒否反応が出たみたいに逃げ出してしまった。

 ある程度離れたところで、恵茉を下ろして肩で息をする。彼女はぬいぐるみを抱いたまま上を指差し、「コーキ!」と言った。

 小さな指の先には、橙色の空を飛行機が悠々と飛んでいく。私もそれを見上げて、彼に想いを馳せる。

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