魅惑の航空王は最愛の元妻を取り戻したい
 まったく考えつかなかったことを指摘され、目から鱗が落ちるようだった。自覚はなかったけれど、言われてみれば自分を優先することに罪悪感のようなものを覚えるかもしれない。今も無意識のうちにそう感じていたのか。

 なんだか腑に落ちて口をつぐむ私に、彼は包み込むような眼差しを向ける。

「芽衣子さんは、とても優しくて綺麗な心を持っている人なんだな。人を気にかけられるのは素敵なことだが、もっと自分の気持ちも大事にしていいんだ。彼女に見せたくないなら、ここで泣いてもいい」

 こんな私もすべて受け入れてくれるような言葉が、胸にじんわりと沁み込んでいく。

 正直な気持ちを必ずしも押し殺す必要はない。そう思わされた瞬間に心が軽くなり、栓が外れたみたいに涙腺が緩む。

「大丈夫。手助けが必要じゃなくなっても、君の存在自体が梨衣子さんの心の支えになっているはずだから。彼女にとって、君が大事な人であることには変わりない。一生、なにがあってもね」

 彼の微笑みと言葉ひとつひとつが温かくて、みるみる不安が和らぐ。ずっと我慢していた涙が、ここへ来て呆気なくぽろりとこぼれ落ちた。

 そうだよね。たとえ梨衣子がなにもしてくれなくたって、彼女が幸せに生きているだけでいいと思える。私がそうなのだから、きっと彼女も同じように思っているはず。

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