魅惑の航空王は最愛の元妻を取り戻したい
 初めての経験で不安が大きくドキドキしていると、しばらくして機長からのアナウンスが入る。

《ただいま強い横風が吹きまして、姿勢を崩してしまったため安全を考慮して着陸を中断いたしました。これから羽田空港に再度着陸を実施いたします。再び大きな揺れが予想されますが、安全性には影響ありませんのでご安心ください》

 落ち着いた声での説明が聞けて、ほんの少しほっとする。しかし、周りの反応は様々だ。

 私の右側、ひとつ空けて隣の座席に座っている六十代くらいの女性は、まだ不安そうな表情でしっかり手を握っている。かたや私の後方では、おそらく中年の男性が「ったく、予定が狂っちまう」などとぶつぶつ呟いている。

 風に煽られたあの状態で無理に着陸を試みたら、最悪の事態に陥る可能性があることくらい私でもわかる。パイロットは万が一を考えて安全を最優先しているのだから、文句を言うのはどうなんだろう。

 平和だった機内が不穏な空気で満ち始めた時、この状況を見ているかのごとく機長が言葉を続ける。

《お急ぎのところ、到着が遅れ大変申し訳ございません。あと十分ほどお時間を頂戴いたします。今年の東京の桜は少し開花が遅れ、今はまだ八分咲きだそうですが、こうして着陸をやり直している間に満開となっているかもしれませんね》

< 28 / 212 >

この作品をシェア

pagetop