魅惑の航空王は最愛の元妻を取り戻したい
 緊迫した状況を感じさせない言葉で一瞬静かになった後、周囲から小さく笑う声が漏れた。皆がほっこりしたように、張り詰めていた空気は穏やかなものに変わる。

 今のは皆の心を解すためにした、機長の優しい冗談だったのだろう。堅苦しくないひと言のおかげで不安が取り除かれ、隣の年配の女性もわずかに表情が緩んでいるし、後ろの男性からも文句は聞こえなくなった。

 アナウンスをただマニュアル通りにするだけじゃない心配りに、なんだか胸が温かくなる。

《それでは皆様、また地上でお会いいたしましょう。本日はご利用いただき、誠にありがとうございます》

 この人になら任せられるという安心感を抱かせて、アナウンスは終了した。同時に、もしかしたらという期待が捨てきれなくなる。

 今の挨拶が、『また会おう』と言った羽澄さんの声と重なったから。

 いろいろな意味で緊張が増す中、再び着陸態勢に入った機体は、必死に風に耐えながら滑走路へ向かっていく。ところが、窓から見える景色が先ほどとは少し違い、違和感を抱いた。

 これって、機首が滑走路に対して正面を向いていない……? えっ、斜めになったまま着陸するの!?

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