魅惑の航空王は最愛の元妻を取り戻したい
 ギョッとしたのは私だけではないらしく、周りからも戸惑いの声が小さく上がる。しかし、滑走路にタイヤが接地する寸前、滑らかな動きで正面を向き、とてもスムーズに着陸した。

 その瞬間、安堵のため息と、後ろの男性の「クラブか。やるじゃないか」と感心したような呟きが聞こえ、どこからともなく拍手が起こった。

 クラブの意味はわからないが、文句を言っていた彼が褒めるくらいなのだから、きっと今の着陸はパイロットの神業のようなものだったのだろう。

 強風の中、安全に着陸させる素晴らしい技量と、乗客を思いやる心を持ったパイロットにただただ感服する。彼らへの敬意を込めて、私も口元を緩めて控えめに手を叩いた。


 時刻は午後六時を過ぎたところ。ようやく降り立った黄昏時の日本の地は、やっぱりとても安心する。

 帰る場所は築三十年越えの狭いボロアパートだけれど、私にはこれが一番お似合いだ。夢のようだった数日間を時々思い出しながら、またつつましく生きていこう。

 しかしその前に、どうしても確かめておきたくなって到着ロビーに留まることにした。仕事をしている時、乗客と同じようにパイロットもここから出てくるのを見かけるから、待っていれば会えるかもしれない。

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