魅惑の航空王は最愛の元妻を取り戻したい
「お待たせ。逃げられてなくてよかった」
「逃げませんよ!」

 少しだけ口を尖らせる私に、彼がおかしそうに笑う。お互いに大きなスーツケースを転がしながら、空港の出口に向かって歩き始めた。

 歩きながら相談して、お店は羽澄さんにお任せすることにした。私は好き嫌いはないし、彼が好きなものやどんなお店に行くのかも知りたかったから。

 タクシーに乗り込み、約十五分で天王洲に着いた。駅で荷物を預けてから向かったのは、水辺に面した日本料理のお店。ここも羽澄さんのグループ企業の中のひとつだそうで、飲食業まで展開している手広さを改めて実感する。

 一見和食屋ではなさそうな黒い外壁のコンテナハウスのような造りで、開放感のある大きな窓からオレンジ色の明かりが灯る内装が見える。

 店内は和紙のペンダントライトや障子が使われていたりして、カッコよさの中に和の要素がうまく取り入れられているモダンで落ち着いた雰囲気だ。とてもおしゃれだけれど高級すぎないお店で、私でもそこまで気後れせずに入れるのがありがたい。

 窓際の席が運よく空いていたようで、夜景が水面に映ってゆらゆらと輝く運河を眺められる。ロマンチックな景色にうっとりしつつ、羽澄さんが帰国するとよく食べているという御膳をオーダーしてもらった。

< 35 / 212 >

この作品をシェア

pagetop