魅惑の航空王は最愛の元妻を取り戻したい
 急に片足のパンプスが脱げ、バランスを崩す。「きゃ……!」と小さく叫び、転ぶのを覚悟して目をつむった瞬間、私の身体は誰かにしっかりと受け止められた。

 目を開くと、光沢のある淡いパープルのネクタイが映る。逞しい胸に飛び込んでしまい、慌てて「すみません!」と謝って顔を上げた。そこにあったのはとても美麗な男性の顔で、思わず息を呑む。

 どこかミステリアスな美しさのある切れ長の瞳、高くまっすぐ通った鼻筋に薄めの唇。その顔によく似合う、ややウェーブのかかった大人の色気を感じる髪。おまけに百八十センチはあるだろう高身長で、どれを取っても文句なしの男性だ。

 おそらく日本人……だよね?と思うと同時に、彼が口を開く。

「危なかった……大丈夫ですか?」
「あっ、だ、大丈夫です! いきなり靴が脱げちゃって……お恥ずかしい」

 やっぱり日本人だ。話が通じるだけですごくほっとしながら、まぬけな自分にえへへと苦笑いした。

 すると彼は「ちょっと待っていて」と言って私から離れ、明後日の方向に転がっているパンプスを拾い上げる。こちらに戻ってくると私の前にしゃがみ、自分の肩に手を置かせて、なんと脱げたほうの足を持ち上げるではないか。

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