魅惑の航空王は最愛の元妻を取り戻したい
 帰りの車内、ようやく肩の力が抜けてシートにもたれる私に、誠一さんは「会ってくれてありがとう」と労いの笑みを向ける。

「ふたりともイメージとは違っていただろ。父さんは社内の人間の前では威厳を保っているが、家ではあんな調子だし、母さんは厳しくてやり手。俺に見合い話を持ってきたり、社長になってほしがっていたのは、どちらかと言うと母さんのほうなんだ」

「逆だと思ってました。きっとお母様は、お父様の大事な会社を守るために一生懸命なんですね。愛しているから。そんなふうに想い合っているご両親で、ちょっと羨ましいです」

 仲のいい羽澄家の親子の姿を見たら、本音がこぼれた。

 私は父親がどんな人かも、母が父とどう接していたかも詳しくは知らない。ただ、許されない関係だとわかっていたのに別れられなかったのだと、母は後悔していた。

 おそらく父は〝もう少しで離婚できるから待っていてくれ〟だとか、都合のいいことを言っていたのだろう。よくある話だ。 だから、羽澄家のような順風満帆な家庭に昔から憧れていた。

 私はまったく父の記憶がないから、梨衣子を身ごもって母はやっと目が覚めたんじゃないだろうか。愚かだと思うけれど、女手ひとつで年子を育てた彼女は尊敬するし、大好きだ。

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