魅惑の航空王は最愛の元妻を取り戻したい
「芽衣子のお母さんは、きっと穏やかで笑顔が素敵な人だったんだろうな」

 ふいに紡がれた誠一さんの言葉で、伏し目がちになっていた私は視線を上げた。すべて包み込むような彼の眼差しに捉えられる。

「俺も、君のお母さんに会いに行きたい。場所を教えてくれるか?」

 これから母が眠るところへ行ってくれるらしい。亡くなっていてもきちんと挨拶をしようという気持ちに胸が温かくなり、感謝を込めて「はい」と頷いた。

 母の日にはまだ早いけれど、カーネーションの花束を買って都内の霊園に向かう。小さめの墓石を綺麗にした後、祖父母に並んで刻まれた母の名前を見つめ、静かに手を合わせた。

 出会ってすぐの男性と契約婚をすることになったなんて、今頃天国で母も驚いているだろう。でも、こうして一緒に手を合わせてくれている彼を見れば、きっと少しは安心するんじゃないかな。

 それぞれ心の中で母への挨拶を終えた後、誠一さんはとても自然に私の手を取って歩き出す。しっかりとそれを握り返した時、ふと感じた。私も、この人と幸せな家庭を築きたいと。

 これから婚姻届を提出して、いよいよ一年間の契約が始まる。それを終える頃、私たちはどんな夫婦になっているのだろう。

 少なくとも今は、この温かな手を離す未来は見えなかった。


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