魅惑の航空王は最愛の元妻を取り戻したい

 梅雨が明け、夏本番の八月を迎えても、結婚生活は変わらず平和そのものだ。裏を返せば、私たちの関係になんの変化もないということだが、とても心地がいいので現状維持できているだけで満足している。

 職場では休憩に入ってロッカーを開けると、まずスマホを確認するのが癖になってしまった。誠一さんがフライトに出ている時は、よくメッセージを送ってくれるから。

 今は香港に行っている彼から、【面白い飲茶があった】というメッセージと、可愛い三匹の豚の肉まんがせいろに入っている写真が送られてきていた。

 ほっこりして【めちゃくちゃ可愛いですね!】と打って送信ボタンを押した直後、隣になにやらにんまりとした郁代さんがやってきた。

「順調そうね~」
「あ、はい。もうカウンターのほうまで終わったし、特に問題なく……」
「仕事じゃなくて旦那様よ、旦那様! 芽衣子ちゃんがスマホ見てにこにこしてること、前はなかったからすぐわかる」

 スマホを指差す彼女に指摘され、やけに恥ずかしくなってくる。

 そんなに顔に出てたかな……。ていうか、嬉しそうにしてたんだ、私。休日に指輪をつける時も同じ顔になっているんだろうな。

 無意識のうちに心情が出ていたらしく頬に手を当てる私に、郁代さんが顔を近づけてくる。

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