魅惑の航空王は最愛の元妻を取り戻したい

 九月末、毎年羽田空港では〝空の日〟として盛大なイベントが開催される。空港をもっと身近に感じてもらうのが目的だそうで、子供から大人まで楽しめる催し物を各航空会社や空港事務所が一体となって行うものだ。

 今年もその日がやってきて、私たち清掃員も常に人だかりの場所が汚れていないかチェックし、やや慌ただしく動いている。そんな中でも、誠一さんの姿を見つけると思わず目で追ってしまう。

 今日の彼はスーツ姿で、次期社長としてイベントの様子を観察している。これも景気回復の一手に繋がるように、日本アビエーションのブースでも趣向を凝らした出し物をあれこれ考えたらしい。

 第一ターミナルの広場に設置された紙飛行機を作るブースのそばを掃除していると、誠一さんも私に気づいて歩み寄ってきた。手を一旦止めて、「お疲れ様です」と挨拶をする。

「今年も大盛況ですね」
「ああ。ちびっ子がたくさんいて可愛いよ」

 とても優しい目で子供たちを眺める彼。そばに来た子と身を屈めて話したりしているし、子供が好きなのだろうか。

 そういえば、跡取りはどうするのだろう。そういう話は一切していないけれど、このまま結婚生活を続けるなら避けられない問題のはず。となると、いずれ私が誠一さんの子供を……。

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