魅惑の航空王は最愛の元妻を取り戻したい
 バッグからハンカチかなにかを取り出そうとしている女性に、「気にしないでください」と制する男性……いや、女性だ。

 よく見ると、社員証を首から提げたパンツスーツ姿の妃さんだった。今日はイベントのお手伝いをしているらしい。

 こういう時こそ清掃員の出番。私は急いで彼らのもとへ行き、未使用のタオルを妃さんに差し出す。

「大丈夫ですか? これ綺麗なタオルなので、よければお使いください」
「すみません、ありがとうございます……!」

 一瞬目を見開いた彼女は、ふわりと笑みを浮かべて素直に受け取ってくれた。

 床を綺麗に拭いた後、ペコペコと何度も頭を下げるママと、失敗して若干しょんぼりした女の子に笑顔で手を振って見送った。

 時計を見やると、いつの間にか休憩時間に入っている。これで事務所に戻ろうと思いながら、フロアの隅に移動して靴を拭いていた妃さんのところへ行き、タオルを受け取る。

「ありがとうございます。助かりました」
「ちょうどあの場にいてよかったです。今日はお子さんが多いから大変ですよね」
「いや、私がぼーっとしていたのがいけないんです。あの親子に悪いことしちゃったな」

< 98 / 212 >

この作品をシェア

pagetop