『異質のススメ』他人と違っているから個性、変わっているから貴重。
 気づくと演奏は終わっていた。
 レコードのジャケットを持ったままボーっとしていたが、「独特の世界に惹き込まれるでしょう」という先見さんの声で現実に戻った。
 彼がターンテーブルからレコードを取り上げたので慌ててジャケットを返すと、「このレコードを買ってから40年近く魅せられ続けているんですよ。他のバンドとはまったく違うオリジナリティーは時代を超えて輝き続けていると思うし、だからこそここが鷲掴みされ続けているんでしょうね」と右手の親指で心臓の辺りを指したので、「最初の音を聞いた瞬間、暴力的な音楽かと思って身構えたら、まったく違っていました。とても優しく包まれて、なんて言ったらいいか、心地良い揺りかごに揺られているみたいでした。それに、イラストが最高ですね。幻想的な世界に惹き込まれてしまいました」と正直に感想を伝えた。
 
「良かった、気に入ってもらって」
「でも、カーテンを引いて部屋が暗くなった時にはちょっとびっくりしましたけど」
「ハ、ハ、ハ」
 大きな笑い声だった。
「驚かせてしまったならごめんなさい。このレコードを聴く時にはいつもこうするものですから」
 後頭部を掻きながら僅かに頭を下げてカーテンを開けた。そして、手に持ったジャケットの中から歌詞カードを抜き出して6曲目を指差した。
「混迷の時代を表していますよね。まるで今の時代を予言しているように」
 その通りだった。
 21の単語がわたしの瞳を突き刺すように飛び込んできた。

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