『異質のススメ』他人と違っているから個性、変わっているから貴重。
 フロア型の比較的大きなスピーカーだった。
 下部に音叉マークとYAMAHAのロゴが見えた。

「こいつとは40年以上の付き合いになります」
 初めて手にしたボーナスで買ったのだという。
「13万円位だったかな? 初任給が9万円弱だったので買うのに結構勇気がいったんですよ。清水(きよみず)の舞台から飛び降りるような気持ちでした」
 しかし、40年前の13万円というのがピンと来なかったので「今に直すといくらくらいですか」と訊くと、暫し考えるような表情を浮かべたあと、「そうですね~、初任給が2・5倍ほどになっているので、33万円くらいでしょうか」と当時を懐かしむように目を細めた。
「でも、40年って凄いですよね。壊れたりしなかったのですか?」
 すると彼はニヤッと笑った。
 まるでその質問を待っていたかのように。
「クラフトマンシップでしっかり作られているので基本的には大丈夫でしたが、一度大変なアクシデントが起こりました」
 そこでいきなりサランネットを外した。
 スピーカーを保護している網目状のカバーが取り除かれると、異様な光景が目に飛び込んできた。
 低音域を再生するウーファーにガムテープが貼ってあるのだ。
 それも円を描くように何枚も。

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