変人・奇人の時代  ✧他人と違っているから個性、変わっているから貴重
准教授・駿河台ひばり
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 今年36歳になるわたしは『尖った発想が時代を切り開く』という開学の精神を持つ先端発想大学で准教授として働いている。
 専門は異質学である。
 異質とは、文字通り、他とは違っていること。
 つまり、同質の反対。
 だから、群れないこと。
 それに着目して立ち上げたのは牟礼内(むれうち)静華(しずか)教授で、日本再興の切り札になる学問領域という自負のもと、研究に(いそ)しんでいる。
 その一環としてわたしは『特徴経営者フォーラム』という異業種交流会に参加している。
 異質学を深耕するためである。
 多くの経営者と交流することによって異能なリーダーを探し出し、該当者に対してインタビューを繰り返している。
 
 ところで、わたしの名字、駿河台(するがだい)の由来は徳川将軍家まで遡る。
 徳川家康の死後、駿府(すんぷ)の旗本を移住させたことから付いた名前。
 由緒正しき家系なのだ。
 名前の〈ひばり〉は、そのものずばり鳥の名前から取ったもの。
〈雲に届くほど天高く飛翔するように〉と願って母が付けてくれた名前。
 とても気に入っている。
 父は母が考えた名前に賛同しながらも()(はる)という漢字に拘ったようだが、母は頑として退けたらしい。
「ひらがなで〈ひばり〉は譲れません」と。
 いつもはおとなしい母が一歩も引かなかったため父は自分の案を渋々引っ込めたらしいが、今でも酒に酔うと「日晴にしたかったんだよな~」とグチグチ言っている。
 でもわたしは〈ひばり〉が大好きだ。
 駿河台日晴だと漢字五文字で重たくてしょうがない。
 ひらがなで〈ひばり〉にしてくれたお陰でバランスが取れているのだ。
 母のセンスに感謝している。

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