『異質のススメ』他人と違っているから個性、変わっているから貴重。
 それでわかった。
 大好きだからこそ辛口だったことを。
「可愛さ余って憎さ百倍ではないですけど、なんか裏切られたような感じがして、どうしても辛口になってしまうんですよね」
 もどかしそうに、居たたまれないように首を横に振った。
「最初に結婚した時は家の中にソニー製品が溢れていました。テレビ、ビデオ、ステレオ、ラジカセ、ウォークマン。映像機器、音響機器はすべてソニー製品でした。しかし、再婚した今の家には何もありません。ソニー製品は何もないのです」
 信じられますか? というような視線が送られてきたので部屋の中を見回すと、確かにソニーのロゴが付いている製品を見つけることはできなかった。わたしの部屋と同様、ソニー製品は皆無だった。
「ただでさえ消費者からどんどん遠ざかっているのに、その上、エクスペリアだのブラビアだの訳のわからないソニーとはなんの繋がりもないブランド展開をしているのが信じられないんですよ。そんなものに莫大な広告宣伝費を使っているのが信じられないんですよ。もっと『憧れのソニー』ブランドに集中しなければだめなんですよ。プレイステーションは独り立ちできた数少ないブランドですけど、わたしだったらソニーステーションにしますよ。ソニーこそが唯一のブランドなんですよ。それに早く気づいて欲しいんですよ」
 製品力を(けな)しているわけではないのですが、と言い添えた彼の目が少し充血しているように見えたが、それだけでなく、悔しさともどかしさ(・・・・・)じれったさ(・・・・・)が全身に表れているように感じた。それは連敗続きの野球チームに歯がゆい思いをしている応援団長のようでもあった。

< 42 / 99 >

この作品をシェア

pagetop