変人・奇人の時代  ✧他人と違っているから個性、変わっているから貴重
牟礼内静華教授
 井の頭公園駅に戻って、そこからほぼ南へ上っていくと、道の両側に立派な家々が見えてきた。
 道なりに行くと玉川上水(たまがわじょうすい)にぶつかるらしいが、教授の家はそれより手前の右側にあるというので、一軒一軒表札を見ながら確認して歩いた。
 
 5分ほどで見つかった。
 MUREUCHI。
 しっかりとした書体で存在感を表していた。
 
 インターホンを押して返事を待っていると、「あら、いらっしゃい」とハスキーな声が聞こえ、ほどなくして玄関の扉が()いた。
 相変わらず60間近とは思えない若々しい顔で、久し振りに見る生顔だった。
 それでもマスクをしていないので変な感じがしたが、それを察したのか、すぐに右手に持っていたものを顔に付けた。
「これ、いいでしょ」
 透明のフェイスシールドだった。
「どうしたのですか?」
「いいでしょう。ネットで見つけたから買っちゃったの」
 ペロッと出した舌がシールド越しに見えたと思ったら、「あなたの分もあるわよ」と後ろに隠していた左手を前に出した。
「ありがとうございます」
 受け取ってマスクの上からそれを付けてシールド越しに見るとなんか違う世界に来たような感じになったが、「さあ、入って」と促されて現実に戻った。

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