『異質のススメ』他人と違っているから個性、変わっているから貴重。
 中に入ると前方右にスタバがあり、若い女性で賑わっていた。
 それを左に見ながら突き当りを左に曲がると小さな改札口が見え、〈SONY入ってる〉のSuicaをかざして中に入ると、奥の階段を下りて中央線のホームに出た。
 
 中央辺りで教授が立ち止まったので、わたしは向き合って目を覗き込んだ。
「何か悩んでますか?」
 突然訊いたせいか、えっ、というような顔をされたが、すぐに「バカね、なに言ってるの」と笑われた。
「でも、人間失格とか、地獄を旅する詩とか、百年の孤独とか……」
 大笑いされた。ホームにいる人が振り向くほどの大きな笑い声だった。
「それは小説の話でしょ。無理矢理私に結び付けないでよ」
 今度は左腕をギュッと掴まれた。
「まあ、それならいいですけど……」
 痛くはなかったが左腕を擦りながら電車がホームに入ってくるのを見つめていると、電車が止まった瞬間、教授の声が聞こえた。
「百年の孤独を飲みながら百年の孤独を読むっておつ(・・)だと思わない?」
 えっ? もしかして、
「あなたの分は残しておくからまた遊びにいらっしゃいね」
 そう言い残して吉祥寺方面行きの中央線快速に乗り込んだ。
 そのすぐあとに特別快速が反対側のホームに入ってきたので乗り込むと、対面のドアのところに立つマスク姿の教授が手を振っていた。
 振り返すと、教授が何か言ったようだったが、その声は耳に届かなかった。
 でも、わかった。
 わたしは頭を下げながら心の中で同じ言葉を丁寧に返した。
「ありがとうございました」

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