『異質のススメ』他人と違っているから個性、変わっているから貴重。
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 自宅の最寄り駅に着いたが、すぐに帰ろうとは思わなかった。
 教授に影響されたせいか、小説を読んでみようという気になったのだ。
 思い立ったら吉日と、駅ビルの中の書店に直行した。
 
 中に入ると、今月のベストテンと書かれた棚が見えた。
 色々なジャンルの売れ筋が展示されていたので、その中から小説部門1位のものを手に取った。
 推理小説だった。
 ぱらぱらとめくると刑事ものだということがわかった。
 殺人者を追い詰めていくのだろう。
 好きな人にとってはたまらないのだろうが、人が死んだり血が出たりするのは怖いので、すぐに閉じて棚に返した。
 2位は中学生が主人公の小説だった。
 冒頭に出てくるイジメの場面が強烈だった。
『半殺し』という言葉が何度となく出てきたので主人公が可哀そうになって読むのを止めた。
 3位はアメリカの小説だったが、タイトルに殺人事件という文字があったのですぐに棚に返した。
 4位は韓国の小説で、女性の社会的地位の低さを訴えるような内容だった。
 日本もまだまだだけど韓国はそれ以上だなとため息をつきながら本を閉じた。
 5位はカミュの『ペスト』だった。
 新型コロナウイルスの影響だろう、こんな古い本が再び読まれていることに驚いたが、ペストについては最近論文をいくつも読んだので購入しようとは思わなかった。
 それからあとも6位から10位の小説をすべて手に取ってパラパラと読んだが、推理小説や学生もの、老人の姓に関するものなどでピンと来なかった。
 結局何も手に持たず、そこを離れた。

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