『異質のススメ』 他人と違っているから個性、変わっているから貴重。
『消費者がどんな製品を望んでいるかを調査して、それに合わせて製品を作るのではなく、新しい製品を作ることによって消費者をリードしていかなければならない。消費者に利便性や使い方などを教えながら市場を作っていかなければならないのだ。もし市場調査を重視していれば、ウォークマンは生まれなかった』
 ホンダジェットは正にソニーにおけるウォークマンだと思った。
 それを父に伝えると、我が意を得たりというように頷いた。
「本田さんはよく言ってたそうだ。『需要がそこにあるのではない。われわれのアイディアがそこに需要を作り出すのだ』と」
 なるほどと思った。
 市場充足型の開発ではなく、市場創造型の開発こそが革新的な新製品を生み出す源に違いなかった。
 ソニーの創業者とホンダの創業者が同じ視点で経営していたからこそ次々にアッと驚くような新製品を生み出せたのだ。
「ホンダはこの小型飛行機だけで終わらせることはないと思う。次は大型のビジネスジェットに挑戦するだろうし、電動の垂直離着陸機(eVTOL)も開発している。宇宙領域への挑戦も表明しているからロケットの開発もしているはずだ」
 自動車会社という観点だけでホンダを見ていると本質を見失うという。
「10年後にはまったく違う異次元の価値を持つ企業になっているかもしれないな」
 そこで何故か不敵な笑みが浮かんで確信ありげな表情になったが、その顔を見つめる母の目が愛情あふれているように感じて、2人が夫婦である理由が少しわかったような気がした。

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