変人・奇人の時代  ✧他人と違っているから個性、変わっているから貴重
先見透
「いらっしゃい」
 マスク姿の先見さんが元気そうな顔で迎えてくれた。
 3か月前に比べて少しふっくらとした感じを受けたのでちょっと見(・・・・・)してしまったが、その視線に気づいたのか、「通勤がほとんどなくなったのとコロナの影響で近所を散歩するだけなのでちょっと太っちゃいましたよ」と頭を掻きながら、「さあどうぞどうぞ」と中へ入るように促された。
 
 通されたのはリビングだった。
 20畳ほどあるだろうか、落ち着いたミディアムブラウンのフローリングに重厚なダークブラウンのテーブルが存在感を示していた。
 一枚板だろうか、艶々と光沢を放っている長方形のテーブルから目が離せなくなった。
 すると、「取締役になった時にこの家を手に入れたのですが、その時に思い切ってこれを買ったんですよ。一枚板のテーブルを数多く揃えている家具屋で一目惚れしましてね」とまるで愛娘(まなむすめ)を見るような優しい眼差しをテーブルに向けた。
 それを聞いて、高かっただろうな、と思いながらもそれをグッと飲みこんで、「いつかわたしもこんなテーブルを買えるようになれたらと思います」とお世辞ではない本心を贈った。

「いらっしゃいませ」
 突然声がしたので顔を向けると、品の良さそうな女性が軽く頭を下げていた。
 奥さんだった。
 ゆるいウェーブをかけたショートヘアが形の良い卵型の顔に似合っていたが、ほとんど白髪だったので年上のように感じた。
 先見さんが黒く染めているからそのコントラストが目に馴染まなかったが、髪をじろじろ見ないように気をつけながら挨拶を返した。

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