『異質のススメ』他人と違っているから個性、変わっているから貴重。
 その次も素晴らしい曲が続いた。
『アランフェス協奏曲』
 スペインのクラシック作曲家ホアキン・ロドリーゴが作曲したコンチェルト。
 しみじみ(・・・・)という言葉がピッタリの落ち着いた演奏。
 ギターとピアノのソロが交互に出てきて、その素晴らしい演奏に思わず聴き入ってしまう。
 わたしがこの曲を知ったのは、ジャズギタリスト『ジム・ホール』のアルバム『アランフェス協奏曲』だった。
 原題は『CONCIERTO(コンチェルト)
《ジャズアルバム史上屈指のベストセラー》という帯の文言に惹かれて買ったアルバムだったが、大大大正解だった。
 19分超にも及ぶタイトルナンバーの演奏は荘厳であり深遠であるとしか言いようがなかった。
 その異次元の世界に惹き込まれて、時として時間を忘れた。
 そして、荘厳と深遠の中で自己を見つめた。
 正体不明の自己と対峙した。
 「わたしは誰?」と問い続けた。
 すると彼らはそれぞれの演奏でアドバイスしてくれた。
 ローランド・ハナがピアノで、ロン・カーターがベースで、スティーヴ・ガッドがドラムで、チェット・ベイカーがトランペットで、そして、ジム・ホールがギターで。「君は君だよ。誰でもない君自身だよ」と。
 わたしは自分を見失いそうになると、いつもこの曲に聴き入った。
 その度に音のメッセージが届いた。
 「雑音に耳を貸さなくていい。誰にも気兼ねしなくていい。深呼吸をして心を落ち着かせなさい」と。
 そして、いつも後押ししてくれた。
 「君らしく生きなさい」と。

< 88 / 99 >

この作品をシェア

pagetop