変人・奇人の時代  ✧他人と違っているから個性、変わっているから貴重
 奥さんがロココ調のコーヒー茶碗をわたしと先見さんの前に置いた。
 とても上品なデザインだった。
 葡萄と葡萄の葉だろうか、手書きの金彩(きんだみ)が余りに美しいので奥さんの趣味だろうかと思ってチラッと顔を覗くと目が合ってしまった。
 するとすぐに品の良い笑みが返ってきたが、何故かわたしは照れてうつむいた。
 それで気を利かせたのか、それとも気づかない振りをしてくれたのかわからないが、「ごゆっくりなさってください」と奥さんはトレイを持って部屋から出て行った。
 
 その後姿を見送って「素敵な奥様ですね」と伝えると、先見さんはちょっと照れたような表情を浮かべて「3歳年上なんです。姉さん女房。掌の上で遊ばせてもらっています」とはにかんだが、自分が好き勝手なことができるのは妻のお陰だと賛辞を忘れなかった。
「私のような変わり者を理解してくれる女性は少ないですから」

 再婚なのだという。
 30歳を過ぎた頃に4歳年下の女性と恋愛結婚したが、10年持たなかったという。
「普通の人だと思ったのに、そうじゃなかった」と言われて縁を切られたのだと笑った。

「子供もできなかったので、2人だけの生活に煮詰まったのかもしれません。いつの間にか私の悪い所ばかりに目が行くようになったのかもしれないですね。それに、私には女心がさっぱりわからないから……」
 ちょっと顔を曇らせたが、それは長く続かず、今の奥さんとの出会いに触れた。知人の紹介がきっかけだという。
「見合いみたいなものです。お互いバツイチだったので、気楽に付き合えたのが良かったのかもしれません」
 それに、変なことを言ったりおかしなことをしたりしても笑って包み込んでくれたのが新鮮だったという。
「『他の人と違っているから面白い』って言われましてね。それを聞いた瞬間、この人だって思ったんですよ」
 だからすぐにプロポーズをして籍を入れたと白状するように言った。

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