『異質のススメ』他人と違っているから個性、変わっているから貴重。
 途中で奥さんが台所に向かい、大きな皿を手にして戻ってきた。
「今日はソーセージを用意しました」
 ドイツのビールに合わせてドイツ産ソーセージを取り寄せたのだという。
 テーブルに置かれた大皿の上には細長いフランクフルター、ニンニクとハーブを練り込んだテューリンガー、ハーブやスパイスが効いたニュルンベルガー、白くてずんぐりしたヴァイスヴルストが3本ずつ並んでいて、付け合わせのジャガイモとザワークラフトが別皿に盛られていた。
 しかしそれ以上に興味をひかれたのは奥さんのエプロンだった。
 泡が溢れそうになっているビールのイラストが描かれているもので、オクトーバーフェストで女性の売り子が着用しているのだという。
「ミュンヘンの気分を少しでも味わっていただければと思いまして」
 笑みを浮かべた奥さんの心遣いが嬉しかった。
 そのせいか、思わず「乾杯!」と大きな声が出てしまった。
 その途端、恥ずかしくなってフェイスシールドの上から口を押えるように手をやったが、そんなことは気にしてないというふうに、2人はとびきりの笑顔で応えてくれた。

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