ヒュントヘン家の子犬姫~前世殿下の愛犬だった私ですが、なぜか今世で求愛されています~
第二章

 恋、こい、初恋。
 甘いものだという。苦いものだという。
 王妃が語って聞かせてくれたことには、初恋はけして楽しいばかりのものではないのだと。

 今も、愛犬の思い出と共に自室へ閉じこもった王を思っているのだろうか。
遠くに見える、城の端。王はこの間、住む場所をベルクフリートへと移した。

王妃の窓から眺めることのできる塔──戦争中にしか使用しない、忘れ去られて久しい建物に、わざわざ移動したのは、臣下たちの声がうるさかったからかもしれない、とアルブレヒトは苦笑した。
 そんなアルブレヒトは、王の承認のいる書類でも、もう自分で処理するようになっていた。


 王妃は恋をしていたのかもしれない。
 遠くの国から、政略結婚で嫁いできた王妃──、シャルロットは、王の顔を見たことがないけれど、アルブレヒトに似ているというなら、きっとそれは美しいひとだったのだろう。
 だから、シャルロットは恋がますますわからなくなった。

 シャルロットは、アルブレヒトがこの世界で一番好きだ。アルブレヒトのためなら何度だって心臓が刃に貫かれてもいいとすら思える。
 シャルロットは、アルブレヒトの愛犬だった。
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