ヒュントヘン家の子犬姫~前世殿下の愛犬だった私ですが、なぜか今世で求愛されています~
 ぽつりぽつりと降り注ぐあたたかいものは、わたしの、何かでべったり汚れた顔を洗うように、ぽたぽたと、とめどなくあふれているようだった。
 雨は嫌いだけれど、このお日様の匂いのするあたたかい雨は嫌いじゃなかった。

 ──ああ、でも、そんな顔をしないでほしい。

「シャロ……シャロ」

 涙を流す「ご主人様」の手をとって、泣かないでと言えたらどれだけいいだろう。
 けれど、わたしのけむくじゃらの手は短くて、黒い唇は獣の声以外あげられない。

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