乃々と貸別荘の話
12ラストスパート







 別荘の日々は過ぎていった。


 夏休みが残り少ないので、ラストスパートだと言って、蒼空親子は出掛けることが多くなっていた。







 蒼空親子が出掛けている時も、乃々親子と恭親子はゆったり別荘で過ごした。


 ふた親子は一緒に食事を取ったり、恭が加減して乃々と卓球をしたり、ビデオを見たりして仲良く過ごした。







 
 乃々が自室のテーブルで犬の絵を描いていると、ノックの音がした。


 乃々は犬に色を塗っている最中だったが、中断して、ソファを降りた。




「黒沢さん」




 乃々がドアを開けると、恭が2人分のお茶のトレーを持って立っていた。






「どうしたの?」

「僕の部屋に来ない?。」






 乃々は犬の絵を置いて、トレーを持った恭に付いて廊下を歩いた。








 乃々が恭の部屋に入ると、恭はいつも通り部屋に鍵を降ろした。


 持っていたトレーをテーブルに置くと、恭は乃々をソファに座らせた。




「黒沢さん、招待したら僕の家に来てくれる?」




 恭が聞いた。






「大型犬が1匹居るよ。車は3台ある。姉さんのと兄さんのと父さんの。家ムダにデカいよ。」

「どこに住んでたっけ?」

「黒沢さんの隣の町。すぐ近くだよ。」






 恭が言った。




「庭にぶらんこあるから、乗せてあげる」



 恭が下を向いたので、乃々も床を見た。

 床に敷いてあるラグは、毛足が短く、触り心地が快適そうだった。

 2人はそこでなんとなく黙ってしまった。



 
「……貰った電話番号をもう覚えた。」




 恭が口を開いた。




「黒沢さん、」

「何?」




 乃々と恭の目が合う。




「北谷との約束取り下げてくれない?。」




 乃々が首を傾げると恭は組んだ足を組み替えた。




「付き合ってるんでしょ。」




 恭は咎めるように口を尖らせた。




「僕が先に出会ってたら良かったんだけど。」




 まったく腹ただしい、というようなため息をつく。 




「どういう事かって言うと」




 恭は小さなテーブルに手を付いて、乃々に屈んだ。


 額に、目を瞑った恭の唇が軽く触れたので、乃々は目をパチクリした。




「好きだよ。」




 目を開けて、恭が言った。




「僕を選んでくれるでしょ?。」




































































































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