乃々と貸別荘の話
7プールと花火







 次の日は晴れていたので、乃々と蒼空は別荘のプールを使う事にした。


 長い期間使われていなかったので、掃除する前、空のプールには枯れ葉が何枚も溜まっていた。


 物置に置いてあったモップに洗剤を掛けてごしごし擦り出すと、プールはあっという間にきれいになった。









 
 別荘のプールは乃々の水着と同じ様な水色で、底はプチプチした肌触りで、水を入れて入ってみると結構深かった。


 膨らませた浮き輪に凭れてプールを泳ぎながら、乃々は空を眺めた。


 浮き輪を使わずに泳いでいた蒼空は、潜水をするので、よく姿が見えなくなり、乃々は時々蒼空を探した。









 プールサイドは柵の周りの大きな木のお陰で日陰になっていた。

 乃々がデッキチェアに寝そべると空に入道雲が浮かんでいる。




「女の子とは遊べない。男だと足引っ張ったりできるけど、溺れると困るから。」




 もうひとつのデッキチェアに寝転んで、蒼空が言った。







「乃々、もう泳がないの?」

「疲れたから」

「僕は疲れない。こんな小さなプールじゃ。」






 頭の後ろで手を組んだ蒼空が言った。




「お前の事を考えるよ」




 ちょっとしてから、蒼空は、デッキチェアから降りると、寝そべっている乃々に屈んだ。

 濡れた髪を片手でかき上げると、乃々の額にキスした。







 別荘へ戻ると、乃々の母親が、リビングのテーブルで鞄をひっくり返していた。






「何してるの?」

「部屋の鍵探してるのよ」






 言いながら、乃々の母親はいつもネックレスを入れるポーチを開けた。


 乃々が見ると、ポーチからは、金の飾りのついた白粉の丸い入れ物や、きらきらした黒いアイシャドウのケースが出て来たが、鍵は見当たらなかった。




「あったと思ったんだけど。どこに行ったのかしらね。知らない?」




 母親はポーチを辞めて、鞄をひっ搔き回しながら言った。






「知らない」

「おばさん、部屋探した?」

「探したんだけどないのよ。」






 鞄を開けて探っている母親の横に座って、乃々と蒼空は一緒に鍵を探し始めた。













 夕方になって、乃々と蒼空がリビングで寛いでいると、外出から蒼空の母親が帰って来た。


 蒼空の母親は持っていた鞄を買い物用の大きな鞄に変えると、車の鍵をカチャカチャ言わせながら言った。





「さあ二人とも、これから花火買いに行くわよ。」




 乃々はソファに寝そべって、蒼空は座ってポテチを食べていた所だったが、中断して支度した。




「蒼空くん何花火が好き?」




 部屋で外着の白いティーシャツに着替えて、玄関に降りてから、乃々が聞いた。




「線香花火かな。お前は?」




 ビーサンをつっかけながら蒼空が言った。






「打ち上げが良い。」

「ふーん。今日売ってると良いね。花火大会だったら今度連れて行ってやるよ。」








 
 車は坂を下り、緑の木々の道を抜けた。

 山間から明るい町中を通っていく時、近所にあるのと同じスーパーがここにも建っているせいで、乃々は自分の家の近くを走っている様な錯覚を覚えた。





 駐車場を歩いて入った量販店は明るいがらんとした広い店で、中へ進むととても涼しかった。

 乃々と蒼空は棚と棚の間が広い店の中を花火を探して歩いた。




「どこにあると思う?」




 乃々が聞いた。




「夏休みだから目立つ所にあるだろ」




 レジの近くの前の方の棚に蒼空が花火を見つけると、乃々は蒼空を置いて駆け出した。



「蒼空くん、打ち上げあった。」



 後からゆっくり歩いてやって来た蒼空が乃々を笑ったが、乃々は花火があるので構わなかった。












 夜になったので、乃々と蒼空はビーサンを履いて外へ出た。


 庭は暗く静かで、リビングのカーテンの周りだけ明りが漏れている。


 買って来た花火を開けると、蒼空が空き缶のローソクに火を付けた。


 しゃがんだ乃々がライターから直接花火に火を付けようとすると、蒼空が乃々の頭を叩いた。




「危ないだろ。」




 蒼空が乃々を睨んだ。




「今度やったら取り上げるからな。」




 蒼空はしゃがむと、素知らぬ顔で乃々から取り上げたライターで自分の花火に火を付けた。






「自分はやってる。」

「僕は危なくないから良いんだよ。なんか文句ある?。」






 乃々が俯くと、手元の花火は、次々と色を変えていく。






「学校が始まったら、友達にお前の事言うね」

「……」

「僕を大好きな女子が違う学校に居るって言う。お前も僕のことちゃんと言えよ。」

「……何て言えば良い?」

「恋人が居るって言いな。後は言わなくても別に良い。」

「友達、何て言うと思う?」

「さあ。僕達の事だからそんなに構わないだろ。」






 線香花火は、細く鳴り、パチパチと弾けた。

 蒼空と花火を見ながら、乃々は、ほう、とため息をついた。














































































































































































































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