離婚した元旦那様、恥ずかしいので心の中でだけ私を溺愛するのはやめてください、全て聞こえています。
☆☆☆


「離婚が成立した」


 それが、初めて顔を合わせた夫の第一声だった。

 十畳ほどの寝室で、畳に正座した東雲朧(しののめおぼろ)に、対面に座る、長い黒髪に灰色の地味な着物を着流した、世にも麗しい、噂に違わぬビジュアルの男性が淡々とそう告げた。

 声の主である男性は、畳敷きの部屋に不似合いなベッドに背を預けて座っている、龍ケ崎一族の若き当主、23歳の龍ケ崎湊斗(みなと)であった。

 背が高く、痩せ型、さらりと長髪を背中に流し、表情はなく、気怠そうに視線を泳がせている。

 無表情が、更に彼の神秘性を深くしている。

 神々しい、と表現したくなるほどの人並み外れた雰囲気と威圧感に、朧は思わず息を呑んだ。

 その様は、まるで精密に造られた人形のよう。

 懇切丁寧に造られた、100人が見たら、ひとりの例外もなく美しいと太鼓判を押す美形の湊斗と朧はまともに目を合わせることができない。

 ちゃぶ台を挟んで湊斗の向かいに正座しているのは、東雲朧。

 18歳になると同時に湊斗の妻として、龍ケ崎家に嫁いできた。

 それから、わずか1年で、今日、突然帰宅し、初めて顔を合わせた湊斗から彼の自室に呼び出され、離婚を言い渡されたのだった。


「そう、ですか。わかりました」

 正座したまま、それも当然だろうな、と納得した朧は、やや硬質な声音で、一言そう返しながら、離婚を決定的にした、昨夜(ゆうべ)のことを思い出していた。

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