離婚した元旦那様、恥ずかしいので心の中でだけ私を溺愛するのはやめてください、全て聞こえています。
心臓が飛び跳ねるほど驚いて、朧は振り返った。

 朧は、ばくばくとうるさい心臓をなだめながらも、無理やり笑顔を取り繕う。

「何のことでしょう?」

 震える声で尋ねると、湊斗はやはり無表情のまま淡々と答える。

「俺の異能、『龍の眼』を甘くみるな。
 俺は、他人の記憶を読むことができる。
 当然、他人が抱えている、別に知りたくもない秘密だって、知ってしまうことがある」

 朧の額を冷や汗が濡らす。

「昨夜、わたしが無能力者だと言ったこと、ご両親から聞いたんですか?」

「聞いた。
 自分に異能がないと嘘をついてまで、そこまでして、よっぽど離婚したいんだろうと思ったから、特に両親にも教えなかった」

「で、でも、湊斗さんとわたしは、今初めて会ったのに、昨夜の時点で、どうして嘘をついたのだとわかったんですか?」

 湊斗は、面倒臭そうに長くさらさらな黒髪をかき上げると、眠そうな眼で朧を見た。


「龍ケ崎の人間が持つ力を、お前たちの常識の範疇におさめるのは無駄だと思え。
 俺の『異能』がひとつだと、誰が言った?」

「……他に異能が……?」

「そうだ。『千里眼』。
 遠くのものを視る能力がある」

「千里眼……?
 あっ、じゃあ……」

「理解したか?
 遠くからでも、この家で起きたことは、把握できる。
 両親とお前の間の確執も、全て承知している。
 当然、お前の記憶も確認済みだ」 

 湊斗の言葉に、朧はあんぐりと口を開ける。

 湊斗は、何の義理もないのに、富子や定国に朧の異能を隠し、味方をしてくれたということなのだろうか。

「うちの両親、さぞかしうざかっただろう?
 悪かったな、迷惑をかけた」

「い、いえ、そんな……」

 予想外の湊斗の謝罪に、朧はますますしどろもどろになって焦ったように、ひらひらと両手を振る。


 湊斗は表情を変えないまま続けた。

「お前と、俺の異能は似ているな。
 知りたくない相手の本音や本心を、嫌でも知ってしまう。
 だから、上辺を取り繕う人間に嫌気がさして、人間嫌いになる」


 それが、湊斗が無愛想な理由なのか、と納得しながらも、朧は眉をひそめる。

 先程から、朧はずっと、湊斗に対してある疑問を持っていた。

 確かに、湊斗の言う通り、朧には、他人の心を読む異能がある。


< 5 / 18 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop