悪妃になんて、ならなきゃよかった

プロローグ

「好きな女が出来た。別れてくれ」

 レイテスト王国の王太子サイフォス・リジエールから、冷たく言い放たれた言葉に。
王太子妃ヴィオラの心は凍りつく。

「……はい?
今なんとっ……」

「何度も言わせるな。
お前だって、離婚を望んでいたんだろう?」

ーー確かに、最初はそうだった。

「でもっ……今は違うわっ!」

「とぼけるな!
俺が何も知らないとでも思ってたか?」

「……どういう、意味?」

「ラピズと2人して、ずっと俺を裏切ってただろう」

 ラピズは、ヴィオラの生家であるシュトラント家に仕える騎士だった。

「っっ!それはっ……」

ーー本当の事を言えば、ラピズは処刑されてしまう……

「でも違うのっ!」

「言い訳は聞きたくない!
お前みたいな悪妃はもううんざりだっ。
今まで俺が、どれだけ心を痛めてきたかわかるか?
そんな俺を支えてくれた女に、心変わりするのは当然だろう。
少しでも悪いと思ってるなら、潔く身を引いてくれ」

ーー心変わりの相手はきっと、フラワベルだろう。

 ビグストン公爵令嬢であるフラワベルは、
元々は王太子の婚約者だった。
ヴィオラが妃に選ばれた事で破談になったものの、ずっとサイフォスを慕っていた。

ーーああ、そんな……
悪妃になんてならなきゃよかった!



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