悪妃になんて、ならなきゃよかった
 にもかかわらず。
リベンジさせてくれと、サイフォスから再び食事に招かれた。

ーー断るって言ったじゃない。

 それでヴィオラは、ようやくサイフォスの考えが読めた気がした。
要は、相手の言動など気にもしてないのだと。
こちらの状況を気にもせず、一方的に求婚したように。
 王太子という、何でも思い通りになる立場で育ってきたなら、至って自然な事だからだ。

「お断りします」
ヴィオラは使いで来ていたウォルター卿に、冷たく言い放つと。
卿の説得に聞く耳も持たず、追い返したのだった。



 ところがサイフォスは、その後も懲りずに誘い続けた。

ーーどうしてこんなにしつこいのっ?

「妃殿下、どうかお願いいたします」

 さすがに、使いのウォルター卿を不憫に感じたヴィオラは……

「……わかりました。
その代わり、どれだけお待たせするかわかりませんが」
そう告げたのだった。

 そしてその心中では、もう2度と誘ってこないようにする手段を企んでいた。



 その当日。

「妃殿下がいらっしゃいません!」
支度に訪れた宮廷侍女たちが騒ぎ出す。

「まさか、王太子殿下とのお食事をお忘れなのではっ!」

「それは有り得ませんっ。
今朝、ドレスの確認をしたばかりですっ」
リモネも焦った素振りでそう答えたが……


 その頃ヴィオラは、こっそり宮殿を抜け出していた。
そして、リモネの協力と手配によって、潜ませていた馬車に乗り込むと。
生家であるシュトラント家に向かったのだった。

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