悪妃になんて、ならなきゃよかった
「ほっとけるわけがないだろう!」
グイと、サイフォスに抱きしめられる。

「っっ!」
驚きながらも、ヴィオラはすぐに逃れようと抵抗した。

「っ、離してください!
一瞬たりとも触れぬようにと言ったはずですっ」

「ならば教えてくれっ。
君を苦しめるために娶ったわけじゃない!
最善を尽くしたいんだ」

 そう、ラピズとの関係も知らず。
さらには求婚に対して、ちゃんと承諾を得たサイフォスからすれば……
自分との結婚がヴィオラが苦しめる事になるとは、思うはずもなかった。

 そしてヴィオラも本当は……
そんなサイフォスが悪いわけではないと、わかっていた。
だが何処かに恨みをぶつけなければ、遣り切れなかったのだ。

 しかし、どこまでも優しく、誠心誠意尽くそうとしているサイフォスを前に。
感情が行き場をなくして、ぶわりと瞳から溢れ出してしまう。

ーーこの人のどこが冷酷だというのだろう。
いっそ悪い人だったらよかったのにっ……

 サイフォスは、腕の中で泣き出してしまったヴィオラに気付くと。
問い詰めてしまった事や、苦しめている現状を、ただただ申し訳なく思い。

「すまなかった……」
そう髪を撫でずにはいられなかった。

 そんな事をされると、ますます涙は溢れ出すもので……
ヴィオラが落ち着きを取り戻して、再び「離してください」と零すまでの間。
サイフォスはずっと、労るように撫で続けたのだった。



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