悪妃になんて、ならなきゃよかった

月と太陽

ーーああ昨日は、なんて醜態を晒してしまったの……

 1番見せてはいけない相手に、涙を晒してしまい。
悪妃作戦が台無しだと、自己嫌悪するヴィオラ。

 とそこに、来客が訪れる。

「初めまして。
フラワベル・ビグストンと申します」

ーービグストン公爵令嬢がなぜ?

 ビグストン家は最も権力を握っている貴族で、その名を知らぬ者はいなかった。

「初めまして、ヴィオラ・リジエールです。
さっそくですが、どのような御用件でこちらに?」

「あら、お茶も出してくださらないんですの?
もっとも、そのようなものお断りしますが……
噂通り、礼儀が欠けてる方ですのね?
おかげでこちらも、遠慮なくご挨拶出来ますわ」
そうにっこりと笑うフラワベル。

 その容姿は、輝くような金髪にトパーズのような瞳で。
同性のヴィオラですら見惚れてしまうほど美しかった。
そしてその笑顔は、太陽のように眩しくて……
月の妖精と称えられたヴィオラとは、まさに正反対だった。

「お近づきの印に、チョコレートドリンクをお持ちしましたの。
どうぞ、お召し上がりくださいませ」
そう言ってフラワベルは……

 次の瞬間、ヴィオラにアンティークポットの中身をぶち撒けた。

「きゃああ!」
「妃殿下!
フラワベル様っ、なんて事を!」

「ごめんなさいっ。
私ったら、手を滑らせてしまいましたわ。
でもこれで、少しはサイフォス様の気持ちがお分かりになったんじゃなくて?
目下の者から、ありえない屈辱を受ける気持ちが」

 ガタガタと震えるヴィオラに、厳しく言い放つフラワベル。

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