悪妃になんて、ならなきゃよかった
 冷酷な王太子の笑顔を、初めて目にしたからだ。
さらには、いつもの冷淡な表情とのギャップにやられたからだ。

 そんな心情を知る由もなく、サイフォスは続けた。

「要らないなら断ってくれ。
ただしその場合、施療院に寄付するつもりだ。
そうなれば君は、寄付するために断った事になるが……
どうする?」

ーーやられた!
断れば、悪妃どころが良妃になってしまう。

 つまりは、受け取るしかなくて……
学習能力がないどころか一枚上をいくサイフォスに、舌を巻くヴィオラ。

「寄付するくらいなら、受け取ります。
そんなくだらない事、虫唾が走るので」
せめてもの悪態をつくも。

 サイフォスは「ありがとう」と零し、侍女たちに開封を指示した。

 そして大量のギフトボックスから……
豪華すぎる装飾品や、目を疑うほどレアな宝石、ため息が出るほど美しい宝石細工などが、次々と露呈された。

 それらはヴィオラが注文したものより、比べ物にならないほど高額で……
結果的に、浪費悪妃計画まで無効化されてしまったのだった。

「……ですが殿下。
馬鹿のひとつ覚えのように、ドレスは青ばかり。
宝石はサファイアばかりでは、さすがに芸がなさすぎでは?」

 サファイアはヴィオラが大好きな宝石だったが……
計画を台無しにされたのが悔しくて、そう嘲った。

< 23 / 44 >

この作品をシェア

pagetop