悪妃になんて、ならなきゃよかった
 後日、サイフォスが仕事をしていると……

「王太子殿下、妃殿下がお見えです」
宮廷侍女から知らせを受ける。

ーーヴィオラが?
その初めての訪問に、胸が騒ぎ出すも。

「今は公務中です。
急用でなければ、後ほどお願いします」
ウォルター卿が断りを入れてしまう。

「いや、通してくれ」
慌てて了承を下すと。

「殿下!
急ぎの案件が立て込んでいます。
それに、下の者にも示しがつきません」
反対するウォルター卿。

 というのも……
ヴィオラの今までの行動から、時間を取られると予測したからだ。

「後で挽回すれば問題ないだろう?」

「また昼食や休憩を取らないおつもりですか?」

「それくらい問題ない。
いいから通せ、命令だ」

「……まったく。
妃殿下に甘すぎます」
そうぶつくさ言いながら、命令に従うウォルター卿。
挙句、その予測通りとなるのだった。


「どうした?」
部屋に入って来たヴィオラに、素っ気なく用件を尋ねるサイフォス。

「剣術大会の時に着るドレスを、殿下に選んでいただきたくて」

「俺に?」
それだけで嬉しくなるサイフォス。
だがその顔は、いつものように冷淡だった。

「はい。
そのような場は不慣れなので、私には決めかねます」

「わかった。
ならば後ほど、部屋に行く」

「いいえ。
ドレスを持って参りましたので、今決めてくださいませ」

 ヴィオラは侍女たちに、20着ほどのドレスを運ばせていた。
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