悪妃になんて、ならなきゃよかった

剣術大会2

 そうして、剣術大会当日。

「妃殿下、お急ぎくださいっ」

 今回は嫌がらせではなく、のろまな気質のせいで、ギリギリの時間に支度が終わったのだった。

「……わかっています」
にもかかわらず、サイフォスの事を考えると胸が痛んで……
なかなか出向く気になれずにいた。

ーーこの姿を見たら、どれほどショックを受けるだろう。
いっそ、怒ってくれたらいいのにっ……

 事の経緯に立ち会ってきた宮廷侍女たちですら。
立場も忘れて、あからさまに呆れた素振りを見せていた。

 リモネは、そんなヴィオラを気持ちを察して……

「王太子妃殿下、とてもお綺麗です」
励ますように、そしてその選択を肯定するように、そう優しく微笑むと。

 ヴィオラは意を決して、悪妃の仮面を被り直した。


 部屋を出ると。
外には、サイフォスが迎えに来てくれていて……
その不意打ちに、思わず悪妃の仮面がはずれそうになる。

 そしてヴィオラの姿を目にしたサイフォスも、思わずショックが滲み出そうになる。

 ついさきほどまでは……
自分が選んだものに身を包んでる姿を想像して、秘かに胸を躍らせていたというのに。
何一つ選ばれてないどころか、何の役にも立てなかった事まで突き付けられていたからだ。

ーーやっぱり俺のセンスは駄目だったのか!?
それとも……
そんなに俺の事が気に入らないのか?
今までの嫌がらせを考えると、後者の可能性も濃厚だった。

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