悪妃になんて、ならなきゃよかった


 それから程なくして……
王太子サイフォスとヴィオラの、結婚式を迎えた。


「まああ!なんて美しいのでしょう。
まるで月の妖精のようですわっ」

 宮廷の侍女たちが、口々に感嘆の声をもらすも。
ヴィオラはスンと、冷ややかな態度をとっていた。

 気乗りしない結婚だからなのは、言うまでもなく。
自分の容姿も好きではなかったからだ。

 その姿は、顔の美しさもさることながら。
真っ直ぐと長い銀髪に、ムーンストーンのような瞳。
透き通るような肌と儚げな雰囲気で、まさに妖精のようだった。

 そのため周りからは、可憐でお淑やかなイメージを持たれたり、高嶺の花だと敬遠されることが多かった。

 ところが実際は、ただ不器用でのろまなだけで……
それを見掛け倒しだと幻滅されたり、猫被りだと批判されてきたため。
見た目を過剰評価される事に、うんざりしていたのだ。

 にもかかわらず、王太子の求婚理由も一目惚れだったため。
そんな相手との結婚に、いっそう嫌悪感を強めていたわけだが……
ヴィオラはそれを逆手に取る事にしたのだった。
 そう、幻滅されて離婚を言い渡されればいいと。

 もちろん、従来の幻滅では離婚理由としては弱いため。
加えて悪妃になり切れば、離婚に至るほど幻滅されるのではないかと考えたのだった。
 つまり、スンと冷ややかな態度をとったのは……
悪妃に扮したからでもあったのだ。



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