悪妃になんて、ならなきゃよかった
 「……すまなかった」
どちらにせよ、またヴィオラを悪者にしてしまったと、謝るサイフォス。
だがせめて、少しでもその体裁を守ろうと、理由を前者の方に仕向けた。

「俺のセンスが悪いせいで、まともな物を選べなくて」

「っ、はいっ?」
また逆に謝られた事と、その勘違いに面食らう。

 とはいえ。
こんな嫌がらせをしてる本当の理由の、悪妃作戦やラピズの事は明かせないため……
その理由に乗っかる事にした。

 事実。
サイフォスはヴィオラに似合う物を選んではいたが、センスがいいものとは言い難かった。

 そしてなにより、問題はそこではなかった。

「……だとしても、なぜ怒らないのですか?
あれほど親身に、真剣に選んでいただいたのに……
私はそれを、踏み躙ったのですよっ?」

 すると、今度はサイフォスが面食らって。
途端、嬉しそうに吹き出した。

 そのレアなギャップの笑顔に、またしてもヴィオラの胸は跳ね上がる。

「っ、何がおかしいのですかっ?」

「あぁ、すまない。
あまりに嬉しくて」

ーー嬉しいっ?
むしろ悲しむところなのに?と、困惑すると。
その理由が続けられた。

「そうやって選んでた事を、わかってくれてただけで十分だ。
ありがとう。やった事以上に報われた」

 というのも、選んでる最中も相変わらず……
気持ちとは裏腹に、その表情は冷淡で。
その口調は素っ気なかったからだ。

 そのため、誰が見ても……
ヴィオラの我儘にウンザリしながら、適当に選んでるようにしか見えなかっただろう。

 それにはサイフォスの、冷酷な噂やイメージが起因していて。
ヴィオラはそういったものを真に受けないため、見極める事が出来たのだった。

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