悪妃になんて、ならなきゃよかった
 だがヴィオラにとっては、ありのままの状況を答えたに過ぎず。

「あなたという人はっ……」

 感謝するような事じゃないのに、深くその気待ちを抱ける人だと。
相手を気遣って、悪くもないのに頭を下げれる人だと。
そしてそれを裏付けるような、これまでの出来事も相まって……
なんて素晴らしい人なんだろうと、敬服させられていた。

 なにより、そんなサイフォスのおかげで……
ヴィオラは胸の痛みや、罪悪感から救われていたのだった。

 でも悪妃的に、それらを告げるわけにはいかなくて……

「俺が何だ?」

「……いえ。
今回は私の負けです」
敬服の念を、そう誤魔化した。

「負け?
俺と勝負でもしてたのか?」

「好きに受け取ってくださいませ」

「……ならば勝った褒美に、望みを聞いてもらえないか?
今日の剣術大会でも、優勝者は望みを聞いてもらえる事になっている」

「そうなのですか?
でも私は、殿下とそのような約束はしておりませんので……」
そう断ると。

「……そうだな」
素っ気なく答えながらも、しゅんとした様子を覗かせるサイフォス。

 思わずそれに、心をくすぐられたヴィオラは……

「……ですが、内容次第です」

 罪悪感から救われたお返しに、少しだけ譲歩しようと思った。
それでフェアだと。

「本当かっ?」
途端、目を輝かせるサイフォスに。

 ヴィオラは再び胸をくすぐられながら、こくりと頷いた。

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