悪妃になんて、ならなきゃよかった
「それよりヴィオラは、なぜ剣術観戦が好きなのだ?」

「……剣術は、私には決して出来ない事なので。
出来る者に憧れているからです」

 憧れるようになったのは、当然ラピズがきっかけだったが……
事実、のろまで不器用なヴィオラは、華麗な剣さばきを熟せる剣士たちに惚れ惚れしていた。

「憧れの的……
となるとヴィオラは、剣術に長けてる男が好きなのか?」

「……もちろんです。
凄腕の剣士でなければ、男として見る事すら出来ません」

 というのは、もちろん嘘で。
悪妃としてサイフォスに、対象外通告を突き付けたのだった。

 ところがサイフォスは、落ち込んだ素振りを見せるどころか。

「ならば逆に、ヴィオラは凄腕の剣士に好意を抱くのだな?」
そう目を輝かせた。

ーーまさか、殿下も剣術を嗜んでるの?
でも、たとえそうだとしても……
公務に追われてる王族が、そこまで強いはずがない。

 そもそも、最強の王宮騎士たちに護られている王族は、剣術を鍛える必要などなかったのだ。
そのため歴代でも、剣術に長けてる王族など一人もいなかった。

「そうとは限りませんが……
この大会で優勝するほどの腕前なら、憧れはするでしょう」

「そうか……」
そう呟くとサイフォスは、ウォルター卿を呼びつけて。
コソコソと推し問答を始めたが……

 ヴィオラは歓声に惹き寄せられて、再び観戦に夢中になった。


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